2020年5月27日水曜日

岩石と地層の表情:028;棟梁が残した野蒜石の工具庫

仙石線が津波被害で事後の再被害を防ぐ為に東名と野蒜を含む経路を大きく高台側に移設してしまいましたが、私が震災後に初めて旧野蒜駅前に立ったのは、まだ代行バスが走っている時期でした。東名運河に沿った旧路線は鉄柱も傾いたままでしたが、野蒜駅跡の西側の外れに立派な造りの小さな恐らく工具倉庫らしい建物が雑草の中にポツンと立っていました。
後で、東名の近くで、この小さな野蒜石を用いた建物が、此処に作業場を持って居た石工の棟梁の工具庫である事をお聞きしました。
地図の赤い線が仙台と石巻を結ぶ現在の仙石線。山を切り開いて標高20m 程の丘陵部に線路を通しその北側に住宅地を造成しました。黄色の線が旧の「仙石線」。小豆色が旧野蒜駅(震災遺構として保存されているらしい)。その少し左手の小さな緑のポイントが今日ご紹介する小さな野蒜石造りの建物です。水色の線は川では無く「東名運河」で、鳴瀬川を介して北上運河から暫く海岸線に沿って東進し、石巻市の北側を横切って旧北上川に接続されています。橙色の線は野蒜石の石切場が連なっている場所。震災の津波が地域を襲った時には、地元の方々はこの崖の上で難を逃れたのです。石切りの痕跡は森林を示す緑の縁に沢山並んでいます。
現在も地図で見ると広い駐車場のに接した場所で現在もそのままに佇んでいる野蒜石を用いた工具庫です。棟梁は震災で津波に襲われて亡くなられたとお聞きました。小さいながら、屋根との取り合いも大きな石蔵と同じ造りです。
野蒜石は、砂礫分が残り基質がすこしづつ剥がれるタイプの凝灰岩です。(基質の固結度にもよりますが、砂礫が脱落するタイプも伊豆などには多いのです)この為、古いものほど暗色系に見える事があります。この石材は比較的均質なものが使われています。
一ヵ所角が欠けている部分が有りました。津波の際に何か大きなものがぶつかったのでしょうか?あたらしい傷です。未だ基質が剥がれていないので別物のように色白です。
壁面の色合い、風合いが何故か大好きです。
窓のスライドを受ける部分とか、低い位置の換気口の一部には何故か大谷石を使っています。
基質の中に比較的均一に比較的小さな砂礫が分散しているものと、後日ご紹介するものではもっと顕著なものをご紹介しますが、灰白色の団子状の周りを黒っぽい粒子が囲むようなものが、野蒜石では良く見掛けられるタイプです。
旨い具合に10円硬貨が引っかかってくれた場所が在りました。この工具倉庫の石材の中では10円硬貨より大きな礫は珍しい存在です。
最初の地図で橙色の線で示した石切跡のごく一部です。この部分は全て切削機が使われています。線路の近くや住宅の近くの比較的小さな石切場跡は手掘りが殆どでした。
代行バスで石巻に向かう時に、現在の(新)野蒜駅となるであろう付近で開削された露頭を写したものです。4トンダンプトラックの運転席がスケール代わりです。緑色凝灰岩層が見えます。

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