2020年9月24日木曜日

船橋市馬込沢付近の木下街道

 今回は成田線の木下(きおろし)から延々と船橋に繋がる「木下街道」の東武電鉄:馬込沢からJR武蔵野線:船橋法典までのおよそ2.7kmの範囲を途中迷路のような枝道を通りながら結局 6 km ほど歩いてしまった。木下街道の南端は「鬼越」と云う地名で千葉街道(国道14号線)とぶつかる場所が起点で、余り綺麗とは言えないが「房州石」を用いた石塀が現存する場所。バス便は西船橋と千葉NTの白井市を結ぶ路線が走っています。9時には馬込沢を歩き始めて神社を四か所、観音堂等の墓地併設場所を二ヵ所の合計六か所を訪ねて全ての場所で伊豆の石材を確認出来ました。これで木下街道は八割方歩き通せたでしょうか。

最初の地図は周辺の、この一年間ほどに歩いた場所と、今日の調査の位置関係。緑で囲んだ範囲が今日のコースです。
この付近は実は「袋小路」が多くとても歩き難い場所です。大規模な住宅開発では無く小規模の開発が多いので地形に左右される開発地域の関係で通り抜けが出来ない袋小路が数多くあります。しかも、道路が緩やかに曲がっているので方向感覚がずれ易く、少々、無駄歩きをしてしまったと云うのが二枚目の地図です。勿論、未舗装の道も歩いています。行く前によく検討しておけばもう少し歩行距離を短く出来たようです。
馬込沢の近くで最初に訪ねた「熱田神社」は、新しい花崗岩の狛犬の脇に天保九年に造立された緑色凝灰岩の狛犬がかなりお気の毒な状態で置かれていました。台石にこびりついた泥汚れを軍手でゴシゴシ削り落としてやっと年号を探し出す有様です。
鳥居が二方向にありましたので南側の鳥居に向って大谷石の階段を登って見ると、庚申塔と馬頭観音を集めた塚のような場所がありました。馬頭観音の石塔が十九基並んでいました。凝灰岩の石塔も含まれています。造立年代は明治の後半から昭和十年代までが殆どですが、一番新しいものとしては昭和四十八(1973)年造立のものがありました。
昭和二年八月造立の馬頭観世音石塔です。伊豆の軟石の中で非常に多い粒状の組織が観察され、大きな凝灰質の偽礫が並ぶ位置で風化剥離が始まっています。
今回の一番南西側、JR船橋法典に近い「七面庵」の階段です。周囲は新旧の墓地で囲まれており、建設された時期は定かではありませんが「庵」はどうやら元禄八(1695)年頃まで歴史を遡る事が出来そうです。この階段に用いられている石材は、千葉県内では主に房総南部の段丘崖上に残る神社等の参道階段に使われている例が散見される比較的千葉では例が少ないものですが、埼玉県には凄まじい量が運び込まれている「石灰質砂岩」で、石灰質の小さな生物遺骸からの石灰質が凝灰質を含む砂岩を固めています。下田市内に多くの産地が集中しています。
階段石の表面に観察されたやや大きな化石の破片、多分、フジツボの殻だろうと思います。普段は殆ど良く判らない石灰藻のかけらの様なものが大部分でその形状から元の形状を想定出来るものは殆どありません。
木下街道二番目の「藤原観音:身代わり観音」で、柱の受に使われている「束石」です。気泡が多いやや風化した岩塊の隙間に淡青色の細粒緑色凝灰質が詰まっているものです。
礎石・文字庚申塔・文字青面金剛塔等に使われていますが、時々、ポックリと岩塊が外れてしまう事が有ります。磨くと結構美しくなるので、建設当初は美しい緑色の束石だった筈です。
藤原神明社の本殿基壇に使われている淡緑色の細粒凝灰岩です。石工さんが、この小さな凹みを小槌で叩いていく処を想像すると大変な作業だなと思ってしまいます。所々、風化剥離が始まっていますが、造立年代は確認出来ませんでした。砂質だと思われますが、破断面ではほぼ確認出来ません。風化して砂の間の凝灰質が脱落して初めて理解できますね。玉垣の内には入れないので 100~300 mmの望遠レンズを使用しています。
一番最後に立ち寄った「前貝塚町」の神明神社では、明治の後期の修復で凝灰質の石材は無さそうに見えたのですが、本殿脇の屋根掛に石祠と共に古い灯篭の棹(軸)が祀られていました、一礼して「ゴメンナサイ!」と呟きながらぐるりと裏返すと造立時期が刻まれていました。文化四卯は1807年。牧の時代からこの地に神社が存在したようです。古い時代の年号がしっかり残っている石造物を保存していて下さる事はとても嬉しい事です!
本殿を囲む玉垣が珍しく金網のフェンスで、しかも出入り自由になっていましたので、念の為に本殿周りを確認した処こんなものを見付けました。
二か所に丸いボスが立ち、四角い穴が大きく開いているので、この上に小さな狛犬か石塔が立っていたのだと思うのですが、想像が付きません。左側面には寄進者のお名前が有りましたので、失礼してぐるりと回転させ右側面を確認すると「明治十一年寅正月」(1878年)と刻まれていました。
石材は、私が「粒状組織」と表現している粒度分布が広く、細粒から最大 20 mm 程度の凝灰質の偽礫までが美しいラミナをていしている種類の石材でした。
一部をスケールを入れて接写して見ました。比較的細粒~中粒の砂程度の部分です。この石材は上賀茂付近でも採掘されていて、関東の石工さんは「みどり」と呼び慣らし(現在は手に入りませんが)燈籠・狛犬・石祠・石塔他の彫刻に良く使われている素材です。

2020年9月21日月曜日

旭市の「飯岡石」

 所用で銚子迄車で出掛けたので、帰りに以前からチェックしていた飯岡石と銚子石の石碑や石塔を見てこようと考えた。毘沙門天(荻園神社)と八幡神社では沢山の使用例を確認出来て幸いだったが、一番の楽しみにしていた飯岡石を50以上使った庚申塔は少々の勘違いでその直ぐ傍まで行っていながら、別の小さな塚を見るだけで帰宅してしまった。どうやら個人のお宅の様に思えた高い生垣に囲まれた場所に在ったらしいので、何れ再訪の予定だが、車でも旭市は遠いのです。

飯岡石と云えば、産総研・地質調査総合センターから発行されている「GSJ 地質ニュース」の6月号表紙を、飯岡石を用いた石塀の画像が飾っていたのを思い出した。マイナーな石材の画像を紹介するとは地質ニュースも大したもんだな!等と思ったのだが、表紙説明を読んでがっかりした。産総研にもフィールををやらないで記事を書く人が出て来たらしい。Google をチェックしてコピペでもしたのだろうかと思われる説明が書かれている。そこには「以前は海岸近くにもこのような石垣が見られたが,2011年の東北地方太平洋沖地震による津波でその多くが破壊され,現在は台地上にのみ残っている.」と書かれている。私は旭市の北側の標高40~60m程度の地域が「台地」だと思っている。

標高 8~10mの例えば県道「122号」沿いや玉前神社裏手の地区も「台地」と定義するのなら別だが、この付近を歩いて頂ければ立派な石塀・石垣・石塁が現存している事がお判り頂けると思う。この辺りは「飯岡石」の観察にはメインストリートと云える。歩かなかったのだろうか?

何時かもう一度行こうと思っている庚申塚のすぐ裏手の小さな塚にも飯岡石を使った「青面金剛」石塔が有る。桜の花が咲く頃に再訪して見たい。
「青面金剛」の造立年代が読めない。石灰質泥岩なので、一般的には結構長持ちするのだが、不均質なのでどうしても苔が付き易いし風化もしやすい。Googleで「毘沙門天」や「萩園神社」を検索しても飯岡石や銚子石は殆ど出て来ないのですが、この石材を見に行くのであれば裏手には見所が沢山有ります。
千葉県は月山信仰や巡礼の旅が今でも盛んな場所で旭市では「西国巡礼」に関する記念碑が数多く観察されます。これもその一つです。地元産石材は安価に手に入ると云う雰囲気がありますが、実はこの石碑の台石の部分は伊豆軟石:緑色凝灰岩が使われています。
馬頭観音です。下の方が少し風化で剥離しています。
前の画像の風化部を拡大したものです。念の為に 20 cm のスケールを置いています。この石材だけでは無いですが、剥離風化(玉ねぎ状風化)は良く観察されます。
チョット勇ましい形状の飯岡石ですね。これも巡礼に関する記念碑です。
墓石の例でかなり成形されていますので、銚子石と区別をつけ難い雰囲気が有るのですが、緑で囲んだ部分にはスコリアがあります。私は当初飯岡石は火山ガラスに富む白い鍵層が偶々石灰化を受けていると思っていました。理由は、板碑や記念碑に使われる大きなものには、ほぼ片面にスコリアの荷重痕があり、反対側には生痕化石が観察されるからです。実際には、千葉県立博物館のこの石のサイトに示されたように、石灰質の有孔虫の石灰化を受けている石灰質泥岩の様です。尚、この墓標の左右に並ぶのは銚子砂岩の家形墓標です。
表面が広く剥離したものがありました苔や黴の影響も着生していますがその着生分布から見ると「均質」では無さそうです。千葉には他に「成東石」や「高宕石」もありますが、石灰質の石材は興味深いものが有ります。
旭市と銚子市の境目付近で飯岡石や銚子石を私がこれまでに観察した位置図です。まだ行っていない場所が沢山ありますがのんびりと探し出していこうと考えています。国土地理院提供のソフトを使用して、観察場所をプロットしています。尚、参考までに赤丸の周辺に緑の線を追加した場所には、旭市でも代表的な飯岡石の石塀が現存します。両方とも偶々横を通りましたので現存しています。標高は10m以下でしょう。
参考用に、産総研・地質調査総合センター発行の「GSJ 地質ニュース」2020年6月号の記事を紹介します。同文は下記で閲覧できますし、子の頁無いからバックナンバーも閲覧できます。時々、面白い記事が有るのでお勧めです。
https://www.gsj.jp/publications/gcn/gcn9-6.html