2008年に通算33年を経て開通した、白河と会津下郷間の国道289号トンネル:甲子トンネルが、風化玄武岩(あるいは凝灰岩 )由来と思われる水膨潤性粘土(スメクタイト)が原因と思われる盤膨れ(車両走行面の膨れ)が最大 33 cm に達し、大幅な改修作業に入って居る。小生も数回このルートは利用させて頂いているが、4月末に改修作業の事を知らずに走っている内に「通行止め」の立て看板を見て慌ててしまった。
実際には休工日に当たっていたので通過出来たのだが、個々のトンネルは最初の画像にも有る様に、トンネル途中で断面が変わり急曲線でのカーブが有るなど通常のトンネルではありえない状態がある。2005年頃に、もう開通しているのだろうと思って走ったが開通していなかったので図に示された迂回路と同じコースを走らざるを得なくてえらく往生したことが在る。地すべり等で、既に完成していたトンネルや橋梁が使えなくなり大幅に路線を変更して再掘削した挙句が、僅か8~9年程度でこの大型改修に至っている。
盤膨れは、蛇紋岩に由来するものが、千葉県では嶺岡トンネル、三浦半島では阿部倉トンネル等で工期を大幅に延長して完工しているが、火山性地質由来のスメクタイトによる地山の膨潤はやや珍しい。但し、他にも結構類例は有る様だ。
路面下のインバートに大きな応力が掛り、コンクリートが必要強度を得る前に圧密で破壊した状態で固まったらしい。新たにコンクリートを打設しなおしても、同じように固結時所定強度が発現する前に破壊してしまう可能性を回避する為に、工場で成形し、強度が発現した「プレキャスト・インバート」を用いたとの事。日経コンストラクションの最新号(2019年6月10日)に記事が掲載されていた。
このトンネルの完成当時の単価が、メートル当たり 260万円だったらしいが、このプレキャスト・インバートは工場生産で精度高く製造できることはあるが、なんと、コストは工事費込だろうがメートル単価が 840万円に及ぶらしい。プレキャスト材の高価格は品質との兼ね合いで高いとは言えないが、地質調査の際に膨張性地山の事は判らなかったと言う事が残念!
塔のへつりの遠景:白河石や芦野石を構成する白河火砕流の給源と言われる「塔のへつり」カルデラの一部は阿武隈川の浸食により美しい景観を呈している
火砕流堆積物ばかりだと思うとこの様に大きな柱状節理が、田の脇にごろりと転がっている。付近には供給源と思われる岩壁は無いので、山体崩壊の際にこの付近まで運ばれたものと思われる。甲子トンネル下郷側出口のやや低い場所。旧道沿い(2006年頃撮影)
やや前屈みの姿勢だが、私の身長は 174 cm だからかなり大きな柱状節理です。凝灰岩質の柱用節理は大きなサイズが多いので、これも凝灰岩質かもしれないが形が整っている。
今年の4月末に甲子トンネルを通過した時にはまだ周辺の山々には雪が残っていた。
公告されていた規制・改修区間は 約 5.5 km とかなり長い。
白河側から入ると直ぐにトンネルの断面が急に縮小され急曲線に入る。真っ直ぐの大断面が当初の掘削区間だが、供用出来なくなり急曲線で膨潤性地山を避けて新しい線形が設計されたものだろう。
当日は休工中だったが、「段差あり」の注意管板がでかい。
福島県に拠る改修公告に掲載された路面の隆起量(盤膨れ))を示す画像。寸法は明記されていないが 10~30 cm 程度に達していた様だ。
西松建設技報に掲載されていた当該区間の新潟側地質縦断図。赤マーキングの部分が変質帯を示す。西松建設技報に掲載された工事報告に拠れば、西松・熊谷JVの担当した、「289号9号トンネル」区間に対しては津川層下位の流紋岩質凝灰岩と上位の軽石質凝灰岩( 細粒凝灰岩・火山礫凝灰岩・凝灰角礫岩等 )が存在し、不規則に分布する熱水変質を受けた脆弱層が想定されていたようだ。
日経コンストラクションに掲載された現改修区間の断面図には、膨張性地山インバート(道路面の下側)を吹付コンクリートでは強度の発現が遅くコンクリートに亀裂が生じる可能性を避ける為、予め工場で製作され設計強度が期待出来る「プレキャスト材」のインバートを採用している。
福島県に拠る改修公告に掲載された「プレキャスト・インバート」を採用した施行状況を示す。「日経コンストラクション」( 2019年6月10日号 )に掲載された記事では、西松建設技報とは異なり「原因とみられるのは、地山の玄武岩に含まれる「スメクタイト」と呼ぶ膨潤性の粘土鉱物だ。地下水や水蒸気に触れると膨張」とある。
参考用にベントナイト製造の「㈱ホージュン」殿HPから、スメクタイトの説明の項を抜粋して引用させて頂いた。
以上
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